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2005年11月 3日 (木)

漫画における「演技」論4

 前回、「漫画は絵で表現するため、そこでの上手い下手にとらわれる部分から『準備不足』が起こる。それがキャラクターデザインを適当にしてしまうことであり、そのためキャラクターは充分な『演技』ができない」ということを書きました。

 このことは、漫画に限らずいろんな仕事などに言えるのかもしれない、とも思います。

 つまり、「得意なこと」があると、そこの能力にとらわれて「全体を見失う」、ということですね。
 例えばスポーツなんかで、体力や能力に自信のある選手がアップをいい加減にやって、ちゃんと試合で能力を発揮できなかったり、怪我をしてしまったり、とか。
 得意なこと、分野、傑出した部門などがあることで、「他は適当でいいや。なんとか帳尻合わせられるだろう」と、いい加減に考えてしまうことは、どんな仕事にもグループにもあることでしょう。
 その意味では、漫画を描いていない人にも読んでもらって、自分のことに置き換えて、何らかの学習機会にしてもらえたら嬉しいなぁと思います。

 さてさて。
 それでは続きです。今回はキャラクターデザインの具体的な話ですね。

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②キャラクターデザイン。「描き分け」

 漫画においても、物語を効果的に適切に表現していく上で、登場人物に演技をさせなければなりません。
 そのためには、映画や芝居で言うところの「キャスティング(役者選び)」に当る「キャラクターデザイン」が必要になります。
 では、そのキャラクターデザインとは、どういうもので、どうしなければならないのでしょうか。
 このデザインの仕方も、漫画の描き方と同じで人それぞれであって、やはり正解があるものではないでしょう。しかし「効果的な演技を漫画の中でさせていく」ためということで考えれば、それなりの方法論が浮かび上がってくるかもしれません。

 まず、キャラクターデザインで絶対に必要なのは「描き分け」です。
 初見で、それが男なのか女なのか、年の頃はどれくらいで、どんな立場、性格の人物なのかがある程度分かる外見でなければなりません。
 実際に、定期的に漫画を描いていく作業をしていると、キャラクターデザインというとこの「描き分け」で止まってしまうことが多いのではないでしょうか。それは、意識の問題もありますが、物理的な準備時間の問題や漫画作業上の問題などがあるのだと思います。

 漫画を仕事にする上で、編集部に絵コンテ(ネーム)を提出します。このネームが通らないと仕事にならないわけです。だから、漫画家はまずこのネームを一生懸命描くことになります。
 編集部や雑誌によって差はありますが、ある程度大きな出版社や編集会議をするようなところではネームの一発OKはまずほとんど無く、何度も何度も描き直すことになります。
 ネーム直しが何度も何度もあって、その上で編集会議でボツになることも当たり前で、そうなるとその作品を描けるか描けないかは編集部次第ということになります。だから、漫画家は実際に描けるかどうかも分からない作品のキャラクターデザインを本腰を入れてするようなことはできません。
 そして、ネームが実際に通ってから本格的なキャラクターデザインを詰めて作画作業に入ることになるわけですが、この時点では〆切が設定されて、急いで作画を進めなければなりません。物理的にキャラクターデザインに掛けられる時間は少ないものになるわけです。
 そうなると、「描き分けができていればいいや。絵には自信があるんだから、なんとかなるだろう」と見切ってしまい、キャラクターデザインの準備は不足したまま、ということになってしまいます。

 この問題に対して愚痴をこぼしても意味がありませんし、解決する特効薬も無いでしょう。
 漫画作業のあり方を変えていくとか、そういう議論をしても現実味のないものだとも思います。
 それよりは、短い準備期間の中でも、意識を持ってキャラクターデザインを練り込むロジックを考えた方が健全ですよね。
 では、「描き分け」からさらに進めていくにはどうすれば良いのでしょうか。

③キャラクターデザイン。「魅力的な外見デザイン」

 キャラクターが、ただ描き分けられているだけでは、それはデザインではありません。
 せっかく漫画で、絵で表現するのですから、ありえないくらい魅力的な外見に練り上げていっていいわけです。そしてそこには、ある程度の速効性が必要です。ぱっと見て「あ。格好いい!」「あ。可愛い!」と魅力を感じてもらえなければせっかくの漫画を読んでもらえません。

 こういった部分を鍛えるには、やはり「自分が魅力的だと感じるもの」に対して素直になりつつ、曲げないということが大事かと思います。
 何を魅力的だと思うかは人それぞれで、そこの部分に個性が出てくるのだとも思います。
 自分が思う「魅力的」というものが、見てくれる人、読んでくれる人にとっても「魅力的」であれば理想的です。しかし、好みはどうしても人それぞれなので、自分が魅力的だと思っても、人がそうは思ってくれないこともあります。そのため、自分の好みを捨て去り、徹底して他者の好み、大多数の好みを公約数的にデザインしていく方法論もあるかと思います。
 ただ、それはやはり自らが望んで描くものでないと、何十コマ、何百コマと描いていくのは大変辛いことになります。
 そこは結局は、作家個人の持ち味、向き不向きということになるかと思います。
 どうやったって個性的な絵になってしまう人に「公約数的なキャラを描け」と言っても無理があるわけですし、逆に公約数的なものに魅力を感じている人に「もっと個性的なキャラを描け」と言っても難しいわけですね。

 ともかく、まず自分が「うん。これは魅力的だ」と思うデザインをしていくことに尽きるのかもしれません。
 演技論的な観点から言うならば、「このキャラクターに演技をさせたら、魅力的だろうなぁ」という、そういうことになるかと思います。

 また、次の段階と絡んでくることですが、内面を喚起させる外見のデザインがあることも必要です。そこは、特徴を誇張する、ということになるかと思います。
 例えば、目が隠れるくらい長い前髪で、そのキャラクターの閉鎖的な内面を誇張する、というようなことですね。
 描いているうちにキャラクターの特徴は大きく誇張されていくものですから、最初のデザインの時からある程度思い切って誇張した方がいいのかもしれません。

④キャラクターデザイン。「内面デザイン」

 外見をデザインしたら、次は「内面」の差別化、特徴付けをすることになるでしょう。つまり、キャラクターの「内面のデザイン」ということですね。
 実際には、これは外見のデザインとほとんど同時に行われるものですが、整理するために別々にしておきます。
 また、外見のデザインより先に内面のデザインをすることもありますし、順番は人それぞれだったりしますが、「描き分け」から話をスタートしたのでこの順番になりました。

 「内面のデザイン」は、たまにキャラクターデザインについて聞く「友人をモデルにして」というようなことがそれに当りますよね。
 絵に描いたキャラクターに人生を歩んで形成されてきた性格を吹き込んでいく時に、一からそのキャラクターの人生を考えるよりは、実在の人物を当てはめた方が早いし、充実した内面デザインができると言えるかもしれません。

 この内面のデザインは、意識をもって明確にやらなければなりません。
 映画や芝居などの実際の役者さんが演じるのとは違い、漫画では作者が動かさなければキャラクターは動きませんし、キャラクターの方から解釈を深めて性格表現を提示して、作者に相談してくるなんていうことはないわけです。(漫画家が自動書記状態になり、キャラクターが勝手にしゃべったり動いたりすることもありますが、これは例外として論じません)
 ここをいい加減にしてしまうと、キャラクターの性格が安定せず台詞や行動が後付けのものばかりになってしまい、まさに「絵に描いただけの登場人物」になってしまいます。また、絵の描き分けがなされているのに、行動原理や発言内容が、どのキャラクターも皆一緒という「クローン現象」も生じます。こういったことは、せっかくの漫画をつまらないものにしてしまいます。

 キャラクターの「内面のデザイン」をするためには、作家に人間を観察する力が必要になります。
 人間の種類を観察し、ストックしていく、そういった研究、勉強が不可欠です。
 そして、そのストックから様々な人間の内容を引き出し、一人一人のキャラクターの中身を構築して膨らませていく作業が「内面のデザイン」ということになるかと思います。

 勿論ここでも、外見の時と同じで「魅力的な内面」を作っていくことが大切だと思います。実際の人間を研究しつつも、やはりそこは漫画なわけですから。人間の持つ魅力的な部分を思い切り誇張するべきでしょう。

 「内面のデザイン」は実際問題、キャラクターに演技をさせるための重要なとっかかりになるものです。外見が固まった上で、この内面がしっかりデザインできれば、演技の半分はできたようなものと言えるかもしれません。

⑤多数のキャラクターを生み出すために

 ただ、先に挙げたように、キャラクターデザインに時間をたっぷりかけることはできません。時間があれば、一人一人のキャラクターをじっくり練り込むこともできるかもしれませんが、物理的にそれは難しい。そうなると、作家それぞれ、内面デザインを効率よくしていく方法論を確立することが、必要になります。
 人間を観察し、研究し勉強し、ストックを溜めていくという作業は、常日頃から続けていく必要があるでしょうけれども、それによりキャラクターがストックされるのには時間がかかります。それに、作家一人の中から様々なキャラクターを生み出していくことには、やはり限界があります。

 そこで、この内面のデザインの効果的な方法として「人にやってもらう」ということが方法の一つとして挙げられると思います。
 友人、家族などの協力を得て、「これこれこういう立ち位置のキャラクターを出すんだけど、どういうヤツにしたらいい?」と相談し、キャラクターの内面デザインに関して分担してもらう。
 言ってみれば、映画や芝居の配役と一緒で、「このキャラクターはこの人にデザインしてもらおう」「このキャラクターなら、この人がいいデザインしてくれそうだ」と振り分けて、内面を作ってもらうわけです。
 例えば、絵だけ渡して、このキャラクターが何歳で、生まれた時からどういう人生を歩んできたのか、今どういう状況でどういう性格なのか、そういう決められた項目に関して書いてもらう。というような、そういう形を考えても面白いかもしれないですよね。
 友人や知人をキャラクターに当てはめて性格付けをしていくやり方を発展させていく方法ということになるかと思います。
 つまり、一人の中から多数のキャラクターを作ることに無理があるのなら、最初から多数で多数のキャラクターを作ってしまえばいい、ということですね。

⑥外見と内面では使う能力が違う

 外見のデザインは、絵の問題で。それは絵が描ければ、できることなわけですが。
 でも内面のデザインは、絵が描けるとか描けないとか、そういうことに左右されるものではないわけですね。ここは、絵を描くのとは違う能力が必要になります。
 空間を表現する能力と、時間を表現する能力の違い…とでも言えるでしょうか。上手い表現がちょっと思いつかないんですけれども。
 外見のデザインができる人は、役者として演技をしていく能力がある人で、内面のデザインができる人は、脚本家、演出家的な能力がある人ということになるかもしれません。
 その両方の能力を一定以上の水準にしていくのは、これは並大抵のことではない、と思います。

 そのため、「絵は描けるんだけど、内面のデザインがどうしてもできない」という人もいるはずです。その場合には、無理をせず、できる人に任せるのが良いのだと思います。具体的には原作者をつける、という役割分担をするということですね。

 また逆に、キャラクターの内面のデザインが得意なんだけど、絵がどうも上手く描けない、という人もいるでしょう。(僕はこのタイプです)
 その場合には、話は自分が作って、絵は外見のデザインができて表現力がある人に描いてもらうという方法もあると思います。

 漫画は、映画やドラマ、お芝居などである程度の人数で役割分担して物語を作っているところを、ごく小人数で構築します。そこで必要とされる能力は多岐に渡るもので、そもそも一人で作るのは無理な媒体だと言えるかもしれません。それは監督、脚本、主演を全部こなすようなもので、ジャッキー・チェン並みの大変な能力が必要とされるのだと思います。
 そうなると、漫画において「演技」という観点が欠けているのも頷けるかもしれません。
 「とてもそこまでやっている余裕がない」
 という現実が、漫画制作にはあるわけですね。
 とはいえ。
 漫画制作の構造問題を語るのが目的では無いので、これについては、「役割分担という方法がある」ということを示し、「キャラクターデザイン」に関してはここで終わりにして、「演技」の話を進めていきたいと思います。

(つづく)

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コメント

もう滞在期間もあまりないです。わけもなく「やばい」と感じます。

「得意なこと」「全体のバランス」ということでは、
アメリカ大リーグNYヤンキースの松井選手が
「穴は埋めなきゃ」ということを言っている、という記事があります。
http://www.yomiuri.co.jp/sports/feature/matsui/ma20050928_01.htm

投稿: 鈴木 | 2005年11月 8日 (火) 03:08

鈴木君。コメントありがとう!
おー。長文読んでくれたんだね。

そうか。そういえばもう11月だもんな。帰国間近だね。1年なんて早いもんだよなぁ。
帰国まで、たらふくエールを飲んでらっしゃいな。血が全てエールになるくらい!

松井選手のコメント「なるほど」と頷きながら読みました。
スポーツでもなんでも、「欠点克服」か「長所伸長」か、指導が偏ることはあるようだよね。
でも、そこはバランスを考えて「両方やればいい」という、その言葉はとても素敵ですね。

でも、今回も気を使って短く書き込んだのかな?
このコメント引用によって何を伝えたいのかが、ちょっと不明ざますよ。

投稿: だんち | 2005年11月 8日 (火) 04:04

> このコメント引用によって何を伝えたいのかが、ちょっと不明ざますよ。

いや、まったく。
同じ主旨のことを松井選手が言ってたんで、知ったら喜ぶかなー、と思ったんですよ。

いつも書き出すとくどくなる(と自分が感じる)んで、
文章をあれこれひねくり回しているうちに不自然に短くなって、
「何が言いたいんだよ!」となっちゃうんだよなぁ。

投稿: すずき | 2005年11月 8日 (火) 21:00

> 同じ主旨のことを松井選手が言ってたんで、知ったら喜ぶかなー、と思ったんですよ。

なるほど!だったらそう言ってくれよー。(笑)いろいろ考えちゃったよ。
実際、記事楽しく読みましたよ。ありがとう!

> 文章をあれこれひねくり回しているうちに不自然に短くなって、
「何が言いたいんだよ!」となっちゃうんだよなぁ。

あー。あるよね。そういうこと。
じゃあ、あれだよ。
最初にまず「今回言いたいのはこれです」と宣言してから本題に入る。そういう癖をつけるだよ。
それに、俺んとこにコメントくれる分には気にしないで長文書き込んでくれて全然OKですぜ。

そんなわけで、訓練がてら、どんどん書き込みたまへ♪

投稿: だんち | 2005年11月 9日 (水) 00:56

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