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2006年4月 1日 (土)

「音響監督佐藤順一」の手法に注目してみる

 「カレイドスター~Legend of phoenixレイラ・ハミルトン物語~」や「ARIA」のアニメシリーズで監督を務めている佐藤順一氏ですが、これらの作品では音響監督も努めています。
 佐藤監督の物語の見せ方に感服しながら氏の作品を観てきていましたが、音響監督としてどのような音作りを志向しているのか、にも興味が沸いたので、その観点で作品を観て感じたことを書いてみようと思います。

 「レイラ・ハミルトン物語」を音に注目してヘッドフォン装着で視聴してみたのですが、まず驚いたのが音の厚みがシンプルで音の作り込みがものすごくあっさりしていたことです。
 どこがあっさりしていたかというと、状況を表現する環境効果音ですね。
 練習場、道路、車の中、雨、湖、部屋。
 昨今の音響技術であれば、いろいろな音を作り込んで臨場感を出すことはいくらでもできるでしょう。
 でも、使っているトラック数は聴いた印象では極端に少ない気がします。

 印象的な雨のシーンや湖のシーンでも、音作りはとてもシンプルで、「雨が降っていることが分かればいい」「湖であることが分かればいい」とばかりにストイックなまでに余計な音は削ってあるように感じました。
 その反面、かなり頻繁に使われる効果があることにも気がつきました。
 それは、主にコミカルなシーンで使われる、キャラクターの心情描写の効果音です。

 「キラーン」「キュピーン」「ズバッ」「ビシッ」「ガーン」「ピキッ」「ドヨドヨドヨ」などなど。

 言葉で表現するのが難しい音もけっこうありますが、多彩な効果音を使ってその時その時のキャラクターの心情を分かりやすく表現しています。
 「ここは驚いた音」「ここは愕然とした音」「ここは興奮している音」という感じで、効果音によってキャラクターが何を思ったのかを表現して、画面や声優さんの演技をサポートしています。
 これは、漫画であれば「描き文字」に相当する技術ですね。
 迫力ある登場シーンとかで「ドン!」なんて書かれていたりする、あれですね。
 そういう「実際にはしない音」をどんどん使って、視聴者にキャラクターの心情を伝える手法は、映画的手法というよりも漫画的手法というものなのでしょうね。アニメーションにおいては、また漫画的に分かりやすく伝えようとする佐藤順一作品には、この手法がとても効果的だということが言えるのかもしれません。

 また、「佐藤音響」のもう一つの大きな特徴は「BGMが流れている頻度がものすごく高い」ということも挙げられます。
 ほぼ、ずっと何らかの曲が流れていて、BGMが無い状態が極端に少ないように感じます。
 そこには勿論演出意図があるわけですね。BGMを使うことにはっきりと意図を持っているから、佐藤監督の作品では「選曲」という役職があるということなのでしょう。

 「環境効果音が薄めである」「心情表現の効果音が多彩である」「BGMの使用頻度が高い」

 この三つの特徴は、それぞれ別々に存在しているのではなく、一つの目的を達成するために関連し合っているものだと感じられます。
 「環境効果音が薄い」のは「BGMの使用頻度が高い」から。BGMを効果的に聴かせるために、バックグラウンドノイズを必要最低限にしているのだと思います。
 「BGMの使用頻度が高い」のは、キャラクターの心情を表現するためでしょう。つまりこれはその目的が「心情表現の効果音が多彩である」ことと同じなのです。

 改めて「佐藤順一音響監督」に注目してみて、佐藤順一作品の「達成すべき一つの目的」とは、「キャラクターの心を伝える」ということになるのだと感じました。
 「ARIA THE ANIMATION」でも「レイラ・ハミルトン物語」でも、全ての台詞の意味や言い回しを、聞いてすぐ理解したり前後のエピソードと繋げたりはなかなかできません。
 でも、視聴しているその時はリアルタイムで感動してしまいます。
 それは何故なのかというと、作品の中で「キャラクターの心情を理解させる」ことではなく、「キャラクターの心情を感じさせる」工夫がなされているからだ、と思うのです。
 その工夫が「BGM」と「心情表現の効果音」なわけです。

 作品を見ていると、キャラクターが何かを感じたり思ったり、または行動する度に何らかの効果音が入ります。それはとても漫画的表現なんだけども、面白いことにそうやって効果音が入っているキャラクターを見ていると、そのキャラクターが何を考えて何を感じているのかが、自然と分かってくるようになるんですね。
 つまり、漫画的表現を使うことで逆にキャラクターに「生身感」が生まれてくるのだと思います。「そこにいて、何かを感じとっている」「心がある」人間であるように感じられるわけですね。
 そこに更にBGMが次々と表情を変えて流れるわけです。
 嬉しいのか、楽しいのか、悲しいのか、切ないのか。画面に映っているキャラクター達の心情に合わせて、的確に音楽が流れることで、見ているこちらは、「今、誰が何を思い、感じているか」をスムーズに受け取ることができます。
 音楽が盛り上がると、キャラクターの心情も盛り上がっていることが伝わって、そしてそこに同調して見ているこっちも盛り上がってくる。そこにある「心情」「心」を音と一緒に感じ取ることができるわけです。
 だから、「ARIA~」や「レイラ・ハミルトン物語」を見ていると、なんだか分からなくても、無性に泣けてきてしまったり、すごく感動できたりするのだと思います。
 勿論、「カレイドスター」本編も同じような音響テクニックが使われていますね。本編で音響監督を担当した鶴岡陽太氏は、バックグラウンドノイズに関しては映画的志向を持っている人だと僕は感じていますが、氏もまた「漫画的表現」と「BGM」の効果を知る人なのだと思います。

 アニメーションという、絵によって物語を伝えるメディアであるからこそ、心情表現には始めから限界があります。というより、心情表現自体がものすごく難しいものなのでしょうね。特に、実際の人間に起こりうる心情を表現する場合には。
 しかし、そこで声優さんの演技を含めて、「音」で補完するというそのテクニックは見事なものだと思います。
 日本のリミテッドアニメーションだからこそ生まれた優れた技術と言えるのかもしれません。富野監督なんかも、絵がろくに動かなくても、声優さんの演技で成り立たせてしまう、気迫と技術を持っていますよね。

 ただし、この技術はシンプルな手法でありつつも、大変に難易度の高いものだと思います。
 なぜなら、この技術は、「心情を伝えるため」のものであるため、監督する者が「心情を正確に把握」していなければならないからです。
 視聴者には心情を理解させる必要は無く、感じ取ってもらえればいいし、役者も感覚で演じることはできるかもしれないけど、音を当て、演技指導する監督は正確に理解していなければならない。
 その理解が無ければ、適切な心情効果音や適切なBGMをつけることができず、視聴者を感動させることができないわけです。
 つまり、そこが佐藤順一監督のすごいところだ、ということになるのですね。
 佐藤監督は、キャラクターの心情を正確に把握して理解もしている。だから物語の流れの中で、誰の心情がどう動いているのかを掴んでいる。
 その掴んだ心情を表現するために、音響監督佐藤順一氏は、「音」を最大限に活かしているのだと思います。

 こうやって考えると、日本のアニメーションは絵で表現されるものでありながら、そこから受ける感動の大きな要素は「音」こそが担っていると言えるのかもしれません。
 そのことを知っていたり、技術として知っていたりする演出家は多いかもしれません。しかし、その技術を真に使うことができる人はもしかすると非常に少ないのかもしれません。
 「人の心を知り」「人の心を表現する」
 そのことこそが、この技術の肝だからです。

 佐藤順一氏はこの肝を知り、実践できる音響監督の一人だと思います。
 「人の心を知り、表現する」という技術は、ものすごいことなんではないかと感じます。そんな技術を持った監督の作品を見ることができるのは、とても恵まれたことかもしれません。

 氏の音響は、ただ単純に「音の作り込み」に注目して聴いた場合には驚きの無いものだと思います。
 でも、音の全体を捉えて、そこにある「心情」に注目して聴いてみると、宝物のような技術が溢れていることに気がつくものなのかもしれません。
 漫画を描いている僕にとっても、学べるものが沢山あるように感じます。効果音やBGMで心情を表現する。そのためにいらない音を削る。そういった考え方、アプローチの仕方は様々な仕事においてもヒントになるものかもしれません。

 音響技術が発達していく中、アニメーションにおける音響技術の原点と、一つの完成形を提示してくれているのが佐藤順一音響監督だと思います。
 そんな佐藤順一監督、音響監督の仕事が堪能できる「ARIA THE NATURAL」がもうじき始まりますね。
 この作品が、音響の観点からも評価がされて、その技術の真髄が多くのクリエーターに伝授され、より多くの素晴らしい作品が生まれるきっかけになって欲しいと念願しています。

 そういった観点は、それはそれとして。とにかく、尊敬する佐藤順一監督が手がける「ARIA THE NATURAL」がとても楽しみです!

 まとまらず、かつ分かりにくい文章になってしまっていると思いますが、以上で「『音響監督佐藤順一』の手法に注目してみる」を終わります。

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