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2006年6月24日 (土)

「ARIA The NATURAL」第12話を見た。

 こんにちは。だんちです。テレビ東京にて「ARIA The NATURAL」を見ましたので、感想を書きたいと思います。
 今回の脚本は吉田玲子さんでしたね。さすがの実力者っぷりを堪能させていただきました。
 どうも吉田玲子さんは今回主に不思議話を多く担当されているような気がします。ケット・シー絡みは全部彼女の脚本のように思うのですが。意図のある人選なのでしょうね。

 今回、二本立てでしたが、一本の物語として見ることもできる構成だったように思います。
 そこにあるテーマは「夢現(ゆめうつつ)」ということですね。つまり、現実と非現実。
 真夏の暑さは現実で、それに対して涼しさは非現実なのでしょう。
 蜃気楼や逃げ水は暑さが生み出す現実的な非現実の光景で、言うなれば、現実、非現実共にNATURALな現象であるのかもしれません。

 真夏の暑さによろめく灯里は、涼しさを追い求めるアリア社長にうっかり追いついてしまい、そこでちょっとだけ涼しさを与えられます。
 でも、それは本当は追いついてはいけない場所だ、ということで、少しの涼を与えられてから、また真夏の暑さの中へと帰っていきます。

 その後、同じ真夏の暑さの中を、涼を取る前と同じようにアリア社長と歩く灯里なわけですが、その表情も歩き方もまったく違っているんですね。
 涼しさという非現実で一休みすることで、現実の暑さの中を元気良く歩けるようになる、というのは、実際の夏の過ごし方にも言えることだと思えつつも、もっと大きな括りで見てみると、自分達の現実の人生そのものに置き換えられるのかもしれません。

 真夏の暑さのような苦しさを伴う人生。
 そこに、ちょっとケット・シーのように一杯のアイスミルクをおごってくれる存在。それは、非現実かもしれないけど、やっぱりあるもので。
 例えばそれは、深夜のアニメーションかもしれない。
 どんどん値上がりしていくタバコやお酒かもしれない。
 お金を出すことで、少しの時間だけ尽くしてくれる女かもしれない。
 でも、そういう存在はとても必要なもので、暑い暑い苦しさを、背筋を伸ばして歩くには、重要な休憩なんだろうなと思います。

 非現実の休憩を楽しみ、そこでちょっとの充電をしたら、また現実の苦しさの中を、胸を張って歩いていこう。
 そんなメッセージのある前半だったのかもしれません。

 そして後半の夜光鈴のお話。
 これは、非現実が現実に繋がっていくお話だったように思います。
 夜光鈴は、その音色で涼しさを与えてくれるわけですが、その存在には寿命があるわけですね。だから、お別れをしなければならない。
 あのピンク色の夜光鈴は、まるで灯里そのものであるかのようでした。
 ウンディーネとして観光案内をして、その限られた時間が終わったら、そのお客さんとはお別れをして、忘れられていくだけの、非現実の存在。
 そのお客さん達の現実からしたら、普段はいないのと同じような存在。
 それが灯里の仕事なのだと思います。
 つまり、前半で言うところの「非現実の涼を与える側」ということですね。
 そんな灯里は、夜光鈴が親友であるかのように、または自分そのものであるかのように、3日間ずっと一緒に過ごします。
 それは、夜光鈴に与えてもらった非現実の涼しい日々。
 その日々は終わりを迎え、夜光鈴はアクアの海の底へと帰っていきます。
 灯里の現実は、そこに残され、非現実のちょっとの涼しさと愛しさは去っていくわけですね。

 去っていくんだけど。

 夜光鈴は、ちょっとだけ、小さな結晶を残します。

 本来は、現実の生活の上では存在していないのと同じ夜光鈴。
 その与えてくれる涼しさや愛おしさは、非現実のものかもしれない。
 でも、そこで感じる自分の心そのものは、現実のもの。
 人生の苦しみを一時忘れるために、ちょっとだけ立ち寄る非現実の世界。
 だけど、それがあるからこそ現実の世界を生きていけるのなら、その一時の心地よさである非現実もまた、実は現実の一つの姿であるのかもしれません。

 現実を生きている、自分の心に、いつまでも残る小さな結晶のように。

 灯里が普段している仕事は、お客さん達の現実の生活からすると、忘れていってしまう非現実の一時だけの楽しみ。
 だけど、一生懸命仕事をして、楽しんでもらおうとしていることは、決して虚しいことなどではなく、一人一人のお客さんの心の中に、小さな結晶として残っていくものなのでしょう。
 灯里は、夜光鈴に自分自身を重ね合わせ、結晶が残ったことで、過去、現在、未来に渡って報われていく喜びを感じたのかもしれません。
 その喜びは、小さな結晶の姿をしていても、あまりにもスケールの大きなもので、それでわけも分からず涙を流してしまったのかもしれないですね。
 こうやって書いていると、郵便屋のおっちゃんの話を思い出してしまいました。
 彼が感じている喜びも、まさに、こんな感じのものなのかもしれませんね(そういえば、あのお話も吉田玲子さん脚本でしたよね)。

 漫画を描いている僕は、このお話を見ていて、自分も多くの人に小さな結晶を残していきたい、と思いました。
 でも、それがサービス業であろうとなかろうと、また仕事に関係なく、友人関係や家族関係や、ご近所付き合いなど、様々な形で、小さな結晶を残し合っていくことはできるのでしょうね。

 このお話から受け取った小さな結晶を、ずっと心に留めておくことは、とても素敵なことかもしれません。
 現実の人生の、真夏の暑さような苦しさの中を、胸を張って、背筋を伸ばして、生きていくために。

 と。また、センチメンタルな気持ち満開で語ってしまいました。感想を書いていてもうっかり涙を滲ませてしまいます。
 お恥ずかしい。
 今回も力強い、そして現実に即したメッセージを受け取ったように思います。
 次回もまた、楽しみです!

 それでは、またです!

 参照:「なぜアニメの感想を書くのか。どういったスタンスで書くのか。」
    :「『音響監督佐藤順一』の手法に注目してみる」

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コメント

初めましてだんち様、jiroと申します。
トラックバックどうもありがとうございます!

すごく鋭い考察です!!
原作を読んでただ漠然と感動していたのですが、
こんな深いテーマがあったから感動していたのかと思わされました。

>漫画を描いている僕は、このお話を見ていて、自分も多くの人に小さな結晶を残していきたい、と思いました。
だんち様は漫画家なのですか?
驚きが2倍です。やはりモノを生み出す人って物事の真理を捉える癖というか才能があるのでしょうか。
これだけ物事を深く見ているだんち様ならきっと夜光鈴の結晶のような漫画を描けますよ。

私からもトラックバックさせていただきます。

投稿: jiro | 2006年6月24日 (土) 21:46

jiroさん。おはようございます。初めまして!コメントとトラックバックのお返し、ありがとうございました!^^
また、記事内容を読んで下さって、過分な誉め言葉も下さって、重ねてありがとうございます!
ARIAを見ていると、「ここにある素敵な宝物は、いったいどんなものだろうか?」といつもついつい一生懸命見てしまいます。
僕が作品から見つけたと思っているその「宝物」を、jiroさんとも共有できたのだとしたら、本当に嬉しいです!
それはもう、やはり原作者の天野先生の素晴らしさあってこそですよね^^
僕も原作大好きで、特に夜光鈴の話では涙をぼたぼたこぼしてしまいました。

≫だんち様ならきっと夜光鈴の結晶のような漫画を描けますよ。

ありがとうございます!!
実はエロ漫画を描いているんですけれども、でもただのエロで終わらない、何か心に残るものを、というのはずっと目指しています。
jiroさんに励ましていただいたことを胸の中に結晶として留めさせていただいて、頑張りますね!!
今後とも、お付き合いの程、よろしくお願いいたします!!^^

投稿: だんち | 2006年6月25日 (日) 06:55

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