「ロケットガール」第1話を見た。
こんばんは。だんちです。先程、WOWOWノンスクランブル放送にて、新作アニメーション「ロケットガール」を見ましたので、感想など書いてみたいと思います。
この作品のことはまったく知らなかったのですが、「WEBアニメスタイル」の記事で見かけまして。「どれどれ」と思ってスタッフ名を見ていると、シリーズ構成に「中瀬理香」とあるじゃないですか!
僕の中で中瀬理香さんというと、「カレイドスター」で高いテンションと独特のノリで楽しく、かつツボを押さえた脚本を書かれていた印象が強くって。
基本的なストーリーメイキングの技術がしっかりしていつつ、「飛ばす」ところをスパーンと飛ばしてくれるというか…この書き方だと分かりにくいですね、えっと、「物語を動かしながらキャラクターを描写することができる」、そういう脚本家だと思うんですね。
この技術は、物語を表現する上でものすごく優れたもので、「流れ」を作る、そういう技術なんですね。
「こういう人物がいる」「こういう舞台設定がある」「こういう出来事が起こる」
という、物語の要素を構成してまとめる、ということはある程度の基礎力があればできることだとは思うのですが、それを流れの中で描写する、または流れを作りながら描写する、ということは、簡単なことではありません。
そこは、才能っていうことにもなってくるのかもしれませんが、中瀬さんは映像に対する感覚を持った脚本家なのかもしれませんね。
「流れを持って、人物、舞台、出来事を総合した物語を表現する」という技術は、漫画にとっても重要なもので、僕にとっては学び取って身につけていきたい技術の一つです。
なので、「ロケットガール」という作品のことを知り、「シリーズ構成、中瀬理香」とあるわけですから、これはきっと勉強になるだろうと思い、そういう観点からも視聴することを決めておりました。
そんなわけで「ロケットガール」第1話。
いや、素晴らしい出来でした。
物語の骨組みは二つ。
ヒロインのゆかりがお父さんを探しに、独り遠い国に旅をする物語。
那須田達ロケット開発チームが有人ロケット打ち上げを成功させようとする物語。
この二つの物語が別々に展開され、突然絡み合い、一気に一つの物語になっていく。
それを、舞台設定、キャラクターを視聴者に分かるように見せつつ成し遂げる。
いや、見事でしたね!
勿論、そこには演出の素晴らしさもあるわけですが。
ゆかりの多彩な表情は本当に良かったですね。顔だけでなく、身体の表情も。非常にいい演技がつけられていたと思います。
でも、それがあるから、先に「飛ばす」と書いた部分、「物語を動かしながらキャラクターを描写できる」ということがあるんだろうな、と思います。
つまりは、「絵による描写力」というものですね。
ゆかりが学校の中で無邪気な表情で友達と会話をしている様子は、ただひたすら明るい女子高生に見えるのですが、実際は母子家庭で父親は行方不明。母親は仕事で家におらず、帰宅すれば誰とも会話せず、洗濯物を取り込み(しかも登校前にゆかりが洗ったのかもしれませんね)、独りで食事をする。
そういう時の彼女は無表情で、自分の現実と向き合う16歳の素顔があるわけですね。
先に無邪気な表情を見せてくれていたことで効果的なギャップが生まれ、ゆかりの現実感というものが非常に伝わってくる演出になっていたように思います。
島で友達からメールが来ても喜ぶ様子を見せなかった辺りも、ただ単に疲れていただけかもしれませんが、人には理解されない自分だけの現実と向き合っている彼女の心の内が描写されていたように見えました。
彼女の表情、行動から、透けて見えてくるもの、感じ取れるものが、あるんですね。
それは、「お父さん」という存在に対する期待、そして満たされないで溜め込まれた切実な想いというものに思えます。
船が島に近付いた時の紅潮する彼女の顔。
「日本人がいる」という情報に興奮する。
車を止め勝手に乗り込む。
彼女は、安川に「はっきりして欲しいの!」と自身の父親に対する心情を少しだけ吐き出しますが、おそらくそれは表面的な、ある程度「用意した」理由に思えます。
本当の理由は、もっと純真に、もっと子供っぽい、そして、もっと女の子っぽい、そんなものに見える。
それは、言葉では一切説明されないんだけど、「流れ」で読み取れるんですよね。
そういったことは「那須田ストーリー」の方にも感じられて。
彼は野心を語るわけですが、やはりそれもどこか「用意したもの」に感じられます。本来の彼はもっと子供っぽく、ただひたすら「ロケットが大好き」な人に思えます。それは、タバコに火をつけるライターの描写などから感じ取れることなんですね。
彼はそういった、初期衝動的な本音は一言も口にはしない。
でも、彼の行動を見ていると、感じ取っていける。
逆に、本音の部分(と思えること)を言葉にしないことで、物語やキャラクターに厚みが出るようにも感じます。行動に本音が出る、というのは確かにあることですが、それを物語上で表現するというのは、実際にやるとなると…やはりかなり高度なことに思えます。
このことは、物語作りの技術ということでいうと、「空白」を作る、ということになるのかな、とも思います。
脚本ということになると、その先には絵があるわけだし、声優さんの演技があるわけだし。全部説明する必要はないわけですね。
でも、「ただ空ける」というのではどうしようもないわけで。「どこをどれだけ空けるか」というところが技術ということになってくるのでしょうね。
それは勿論、演出の段階で、ということでもあるのでしょう。
漫画の技術に置き換えると、ネームで台詞を入れるべきコマであったとしても、絵で描写することに賭けて、その台詞をなくしてしまう、ということなんかも、そういったものと言えるかもしれませんね。
そこには、「これは絵で伝えられる」という、技術に対する信頼と、「伝わる。分かってもらえる」という受け取る側に対する信頼とが重要になってくるところなのでしょうね。
技術という計算できるものと、視聴者の情緒という計算できないもの。それぞれに対しての思い切り。
中瀬さんの脚本には「思い切り」があるなぁと感じていたのですが、なるほど、そういうところなんでしょうね。
「伝える」ことと「伝わる」ことに対する思い切り。
それは、物語を作る者にとっては基本的かつ重要なメンタリティなのかもしれません。
「絵で伝える」ということにおいて、その思い切りを支えるものとして、「キャラクターデザイン」というものも、やはり外せませんね。
この作品のキャラクターデザインも非常に素晴らしいものだと感じます。
外見にはっきりしたキャラクターがあって。その幅も広い。その上で、物語の性質にも関わってくるんだろうけど、全体的に柔らかく統一されている。
アニメーション用のキャラクターだから線が少なめ、ということもあるんだろうけど、表情の演技をつけやすいデザインになっているように感じます。
それは、「空白」というキーワードでいうと、絵にちゃんと空白があるというか。動く自由度が感じられます。
そこにも、「作りこまないで空ける」という発想はやはりあるのでしょうね。
こういった優れたデザインもあって、「伝えられる」という実感を強く持つこともできるのでしょうね。
やるべきことをやる、というか…準備すべきことをきちんと準備するということと、作りこむ、ということはイコールではないんでしょうね。
空白を作ることも準備の一つ、ということかも。
作りこみすぎたり、説明をしすぎたり、というのは、思い切りの悪さ、不信感から来るのかもしれませんね。
信頼を持った思い切りを前提とすることで、必要とする技術が明確になっていくのかもしれません。
技術やロジックは、作品を作っていく上で重要なものなんだけど、その前提にあるのは、「姿勢」というスタートラインなのかもしれませんね。
勉強になります。
シリーズ構成の中瀬理香さんの名前を見たところからテーマを持ち、視聴してみて感じたことをひとまず書いてみましたが。自分としては、なかなか面白い発見をしたように思います。
「行動から本音が見える」
ということでいうと、物語の先にある様々な衝突やドラマが息づいてくるように感じます。
それは、とても面白いものになっていく予感を伴うものでもあります。
その前提として、「観ているこちらに対する信頼」があるのであれば、応えたくなるのも人情でございます。
今後も楽しく視聴し、そして勉強させていただこうと思っております。
ではでは、まとまりませんが、「ロケットガール」第1話の感想を終わります。
またです!
参照:「なぜアニメの感想を書くのか。どういったスタンスで書くのか。」
:「物語り人(ものがたりびと)」であること。…学習機会レポート2
:「物語作りの基礎。普遍的土台と誇張表現の調和により生まれる適度な感情移入…学習機会レポート」
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コメント
こんばんは。一応録画しておいたのですが正直見ようか見まいか迷っていました(チャンピオンズリーグが再開したため)が、ここや他のサイトさんのほうでも評価が高かったので気になって見てしまいました。
いや、おもしろかったです。見るキッカケを与えてくださっただんちさんにも感謝申し上げます(笑 素人目から見た感想は単純にストーリーがおもしろい、テンポがいい、原作が読みたくなる(原作を大切に再現してる感じ)≒ギクシャクしてない、etcです。だんちさんの仰る通りやっぱり脚本って大事ですね。作画の乱れもなくすごくスムーズなので余計な事考えずに素直に楽しめました。
>安川に「はっきりして欲しいの!」と自身の父親に対する心情を少し>だけ吐き出しますが、おそらくそれは表面的な、ある程度「用意し
>た」理由に思えます。
オーソドックスなツンデレよりこういうライトなほうが微笑ましく感じますね。あのロケットライター売ってないかなぁ。
投稿: ミント | 2007年2月23日 (金) 22:43
ミントさん、こんばんは^^
僕が書いた記事が作品を視聴するきっかけの一つになったのでしたら嬉しいです!
面白かったですよね^^
僕はテーマを持って記事を書いたので、ごちゃごちゃいろいろ言っていますけど、とても面白くまとめてくれていて、仰られる通り素直に楽しめる、良い第1話でしたね。
「面白い!」となりつつ、ちゃんと第1話としての情報を消化していて、こちらに飲み込ませる、というのはやはり脚本のレベルの高さを感じます。
良い脚本家、脚本の作品って、絶対いいですよ。今後も素晴らしい脚本で楽しませて欲しいなぁと念願しております^^
原作、読みたくなりますねー!
僕は放送が終わったら読んでみようと思います。
僕好みの「おっさんと少女」という組み合わせもできるので…こりゃ、二次創作やっちまいそうな予感もします。原作読むのは必須になるやもしれません^^
ゆかりは、ツンデレ云々っていうか、非常に等身大の「少女」らしさを感じますよね。
友達といる時は楽しそうでも、自身の悩みというものは決して楽なものではなくて。
そこは誇張表現でありつつ、誰にでもあることなんでしょうね。
彼女が自身の悩み、苦しみにどう直面していくのか、どうリアクションしていくのか、重要な見所になっていきそうですよね。
あのロケットライター、僕も欲しい^^
小道具もどんなものを見せてくれるのか、楽しみですね。
今後も楽しく見ていきましょうね!
投稿: だんち | 2007年2月25日 (日) 02:52
こんばんは。
「ハルヒ」に続いて、「好きな小説が原作のアニメ」にてまたお邪魔させて頂きます。
第一話、さすがに京アニクオリティとまでは行かないまでも、なかなかの出来でしたね。ただ、「ディスティニー」はやめて欲しかったですが。じゃーなにか、あんたは机のことを円盤だと言い張るのか?
「ロケットガール」は、もう十数年前から出ていていまだ文庫3冊(4月に短編集が出るそうですが)しかないというファン泣かせの作品ですが〜というか、作者が専業作家としては驚異的に寡作なのですが〜「ライトノベル」畑ほぼ唯一、本格ハードSFとしても通用する傑作です…特に2作目以降は^^;;。
だんちさんが読み取られたように、物語を動かすのは基本的に内に熱い情熱を秘めた“漢”たちなのですが、然して野尻さんの作品に登場する連中はみな恐ろしく理性的かつプラグマティックでもあり、そこが作品に独特な魅力を与えている…と思っています。
いわば、ロケットの打ち上げですね。
定まった手順を忠実にこなし、想定外の出来事があれば協議して合理的に対処し、あらゆる局面で冷徹にGO/NOGOの判断を下しつつ進められる、一見きわめて実務的な作業。なのに、そこに集約する“想い”の濃さと熱さときた日には、なまじな恋愛小説や活劇映画なんぞ塵も遺さず消し飛ばしてしまうものがある。
野尻作品、とりわけ「ロケットガール」とは、そういう小説です。少しだけ現実から飛躍するためのちょっとした(?)技術的ブレークスルーを除いて、基本的にいまの科学技術でできないことは出てきません(※)。構想とやる気(と予算)があれば、ひょっとすると明日にも実現に向けた一歩が踏み出されるかもしれない。
それらはいわば、人類の可能性を広げようとする人々への応援歌なのです。
(※)科学的にどうにも疑わしいのは、ゆかりたちのプロポーションと体重^^;;くらいだそうな。
意地でも前を向くゆかり。
自然体で前を向くマツリ。
そして、健気に前を向く茜。
愛すべき3人娘の、新たな舞台における活躍を期待して。ついでに、これを機にもーちょっと「ロケガ」を書いてくれることを期待して。アニメを楽しみに見て行きたいと思います。
ああ、もう第2話が今夜ですね。OP/EDはどんなかな?
P.S. ちなみに、つい先日ハヤカワ文庫で野尻さんの「沈黙のフライバイ」という短編集が出ました。だんちさんが原作を読まれるのはアニメ終了後と思いますが、その前にもし気が向いたら手にとってみてください。アニメの見方がちょっと変わるかも知れませんよ。
では。
投稿: Iuth | 2007年2月28日 (水) 22:22
Iuthさん、こんばんは^^
「好きな小説が原作のアニメ」ということで、「ロケットガール」開始おめでとうございます^^
いやもう、この第1話の脚本クオリティは本当にすごいものですよ!!
「アニメーションにおけるクオリティ」
という評価に、是非とも「シナリオクオリティ」というものがちゃんと論じられるようになっていって欲しいと願うものであります。
原作のご紹介ありがとうございます。
アニメが終わってからじっくり楽しもうと思っております^^
ハルヒの時にも言っていたように、アニメーションはアニメーションで、「青山弘監督作品」として原作とは切り離して楽しむべきですよね。
監督する人間が違えば、そこに込められる作品の意図は違ったものになるわけですから。「青山弘という人物が何を訴えたいのか」のところ感じ取っていく作業が、アニメーション「ロケットガール」を視聴することになっていくのだと思います。
シリーズ構成に中瀬理香さんを起用している意図もまた、監督の主張としてあることだと感じます。
アニメーション作品「ロケットガール」が何を見せてくれるのか。
そのことを毎週楽しみにしつつ、数ヶ月先に原作を読むことを楽しみにしたいと思います。
まぁ、Iuthさんにこれだけ熱く原作を薦められたら読まないわけがありません^^
「沈黙のフライバイ」も購入リストに加えておきますね。
いろいろとご紹介ありがとうございました!
ではでは、またです!
投稿: だんち | 2007年3月 5日 (月) 01:33